残業の夜

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「……」 「……」  運転と同時に敦史さんはラジオの電源を切った。なので、車内は無音。僕は、敦史さんの顔色を窺いながら、そっと口を開いた。 「あの、僕を待っていてくれたんですか?」 「うん? ああ、そうだ」  ああ、申し訳ない……僕は謝罪した。 「すみません。こんな遅い時間まで、待っていただいて」 「いや、俺が勝手に迎えに来ただけだから気にしなくて良い」 「でも……」 「終電の時間もあるし、何と言うか……ひとりで居るのが落ち着かなくて、早く空の顔が見たくて、気が付いたら車を飛ばしていたよ」  ――っ。  そんな……勘違いさせるような言い方はしないで欲しい。  複雑な気持ちを抱える僕をよそに、敦史さんは前を向いたまま口を開いた。 「さっきの後輩君。空に懐いてるみたいだったな」 「懐く……ああ、新人の頃から面倒見てますから、きっとそう見えたんですよ」 「良いな。俺も空の後輩になってみたい」 「敦史さんが? 僕の、後輩?」  思わず素っ頓狂な声が出た。敦史さんはくすくすと笑う。 「先輩、って顔をした空を毎日近くで眺めていたい」 「顔って……僕、そんな顔してますか?」 「していたよ。家に居る時とはまた違う顔だ」  自覚が無かった。  それじゃ、僕、敦史さんの前ではどんな表情なんだろう。何だか怖くなってきた。 「空先輩に仕事を教わるなんて、羨ましいな」
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