残業の夜

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 目を細める敦史さんに、僕は全力で否定した。 「止して下さいよ、そんな……僕が敦史さんに教えることなんて、何も無いですって」 「ふふ。どうかな?」  車は信号待ちで止まった。横断歩道を、手を繋いだ若いカップルが通り過ぎる。その手にはコンビニのビニール袋。ああ、アイスが食べたくなってきた。けど、寄り道して下さいってお願いするのも申し訳ないし……。  今日は我慢しよう。そう決意した僕に、敦史さんが訊く。 「コンビニ、寄ろうか?」 「えっ!?」 「何だか、そういう顔をしてあのカップルの袋を眺めていたから」  どれだけ顔に出やすいんだ!  僕は赤くなる顔を押さえながら、首を横に振る。 「いえ、結構です!」 「そうか……?」 「あ、でも晩御飯……」 「それなら心配しなくていい。作って温めれば食べられる状態にしてあるから……けど、デザートが無いな。空、甘い物、食べたくないか?」 「うっ……アイスが、食べたいです」 「了解。マンションの近くのコンビニに寄ろう」  青信号になったので、敦史さんがアクセルを踏む。僕は横を向いて真っ黒な窓ガラスを眺めた。そこに映るのは、自分の顔。  ……残念、か。  僕が出しているという、変なオーラを敦史さんも感じ取っているのだろうか……。 「あの、敦史さん」 「ん? どうした?」 「えっと、その……僕、ぽわぽわしてますか?」 「んん? ああ、さっきの後輩君の言っていたことか?」
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