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敦史さんは前を向いたまま、少しだけ笑った。
「ぽわぽわと言うか……うーん……」
「あの、はっきり言って下さい。僕の職場での評価は散々らしいので、今はもう傷付いたりしません」
「職場での評価?」
「あ、つまり……僕、残念な美人って評判らしくて」
敦史さんは何も言わず運転を続け、数メートル先のコンビニの駐車場に車を停めた。そして、エンジンを切ったところで、ふるふると肩を揺らして俯いた。
「あの、敦史さん?」
「いや、すまない……言い方が……くっ……」
顔を隠して、敦史さんは笑いをこらえるのに必死だ。僕は何とも言えない気持ちになって、敦史さんの左肩を指でつつく。
「敦史さんも思ってるんですね。僕のこと、残念だって」
「いや! 思っていない! 思っていないが……斬新な言い方が面白くて、つい……くくっ」
「あーあ。職場ではクールな感じで居たつもりなのになぁ」
「……くふっ」
「今の笑うところじゃないですよ」
数分の間、敦史さんは湧き上がる笑いと戦っていたが、やがて顔を上げて僕を見た。目元は緩み、ほんのり涙が滲んでいる。どれだけ可笑しかったんだ。くちびるを尖らせる僕に、敦史さんは謝罪した。
「すまない、空。本題に戻ると、別に空は残念なんかじゃないぞ」
「……良いんです。そんな嘘は」
「嘘ではない。何と言うか……ちょっとふわっとしたオーラが出ているが、そこがまた可愛らしくて良いと思うぞ」
「……」
「空。機嫌を直してくれ。アイス、奢るから」
「……別に、怒ってないです。先に訊いたのは僕ですし」
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