残業の夜

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 車を降りてコンビニに入る。僕が取るのよりも先に敦史さんがレジ横のカゴを手にした。本当に奢ってくれるつもりらしい。そんなの悪いと思ってちらりと敦史さんの顔を見たら、優しく笑って「行こう」と促された。 「あ、新商品……」  アイスのコーナーまで行くと、レモン味のカップのアイスが目に飛び込んで来た。美味しそう。けど、今日はバニラの気分かなぁ……。 「迷っているのか?」 「っ……」  ひょいっと顔を覗き込まれて、心臓が止まるかと思った。僕は驚いていませんよ、という風な顔を作って「はい」と頷く。すると敦史さんが「なら……」と口を開いた。 「両方買って、ひとつは明日食べれば良い」 「でも……」 「良いから。これと、これ?」  敦史さんはレモンとバニラのアイスを手に取ってカゴに入れた。うう、迷っていたアイスの種類まで顔に出ていたのか……恥ずかしい。   「俺もバニラの気分かな」  そう言って敦史さんは、自分の分のアイスもカゴに入れた。それから、店内を二人でぶらぶらする。冷房が効いているからアイスは溶けないだろう。食パンと牛乳をカゴに入れて、最後に日用品のコーナーへ。あ、ボールペンが切れそうだったから買おうかな……けど、会計は敦史さんだから許可を得ないと。 「あの、敦史さん、」  言いかけて僕は口を閉じる。  敦史さんは、じっと棚の下の方を見ていた。そこに並んでいるのは、黒い箱。そう、それは……。  ――ご、ゴム……。
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