残業の夜

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 ――少しでも、意識してもらえたら。  ハードルは高いけど、残された道はそれしかない。敦史さんに、振り向いてもらいたい……! 「敦史さん、やっぱりひとくちどうぞ」 「え?」  僕はアイスをスプーンで掬って敦史さんに差し出した。敦史さんは目を丸くして、数秒経ってから口をスプーンに近付ける。そして――。 「ん。やっぱり美味しいな」  少しだけ照れたように敦史さんは笑顔を見せた。僕はその顔を見て、決意する。    ――猛アピール作戦、開始!  馬鹿げてるかもしれないけど、何もしないよりは良い……よね!   「それじゃ、先に休ませてもらうな」 「あ、はい」  自分のアイスを食べ終えた敦史さんが立ち上がる。歯を磨きに行くのだろう。僕は「敦史さん」と彼の名前を呼んだ。 「おやすみなさい、敦史さん」  今出来る、精一杯の自然な笑顔で僕は言った。敦史さんも微笑んで「おやすみ、空」と返してくれる。良い空気だ、うん。きっと、大丈夫……!  洗面所の方に消えた敦史さんの背中を見送りながら、僕は溶け始めた自分のアイスをスプーンで掬った。心が熱くて、味なんかもう分からない。冷たい感覚だけが舌の上で踊っていた。  どきどき、どきどき。  緊張と期待が入り混じる。  敦史さん、僕はあなたに染まりたい。  そして、いつか、僕に染まって欲しい――。
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