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作戦開始
午前四時半。
僕は半分まだ眠っている頭を叩いてベッドから這い出した。
キッチンに向かって、ごそごそと棚を漁る。そして――。
「っ! 熱い!」
熱したフライパンに油を垂らし、その上に卵を割って中身を落とした。熱い油が顔に飛んでしまい僕は小さく悲鳴を上げる。幸い、敦史さんの寝室には聞こえていないようで、廊下はしんと静まり返っていた。
僕は今「胃袋を掴め作戦」を実行しようとしている。
あのアイスの一件からすぐに、僕はお弁当箱を二つ買った。ひとつは自分の分、もうひとつは、敦史さんの分。作り続けてもう一週間になる。肝心の敦史さんの反応は、初日はかなり驚かれた。けど、それから嬉しそうに「ありがとう」って言ってくれた……うん、ちょっとずつ前進すれば良い。
おかずはほとんど冷凍のやつを使っている。けど、玉子焼きだけはどうにか自分で作ることにしている。丸いフライパンで四角い玉子焼きを作るのはめちゃくちゃ難しいけど、フライパンを右に左に振り回し、形は包丁で整えて、どうにかやっている。
「白米は……よし、炊けてるな」
前日の夜にセットしておいた炊飯器からは、ふんわりと柔らかい香りが漂っている。そのにおいを嗅ぎながら、僕はフライパンの作業に集中した。
「で、出来た……」
今日のお弁当は、冷凍の鳥の唐揚げに焼いたウインナー、それから自然解凍出来る便利な野菜の詰合せに、手作りの玉子焼き! ご飯をよそってふりかけをかければ完成だ……唐揚げ、ちょっと多かったかな。バランスが難しいな、お弁当って。
蓋をする前にちょっと冷まそうと、ぱたぱたうちわでお弁当を扇いでいると、廊下から足音が聞こえた。全身に緊張が走る。思わずぎゅっとうちわを握りしめると同時に、現れた敦史さんと目が合った。
「空……また作ってくれているのか?」
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