4133人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
「せーんぱい。また手作りのお弁当ですか?」
昼休み、さっそく後輩に絡まれる僕だ。僕は須田を無視してお弁当箱の蓋を開ける。中身が寄ったり崩れたりしていないお弁当を見て、僕は安堵の溜息を吐いた。
「先輩。それ、本当に先輩の手作りなんですか? 例のお見合い相手の人が作ったんじゃないですか?」
「違うよ……女性が作ったんなら、もっとこう……繊細だろう?」
「ああ、確かに……これは唐揚げとかどーんって入っていて、男の料理って感じですもんね」
敦史さんも同じようなことを思っていたらどうしよう……けど、作ってしまったものは仕方が無い。料理は見た目より味だ!
僕は手作りの玉子焼きを箸で摘まんで口に入れた。が。
「うわ、しょっぱい!」
しまった! 砂糖と塩を間違えてる! 甘めの玉子焼きを作ったつもりだったのに! ああもう、僕の馬鹿!
ショックで項垂れていると、須田がにやにやと鞄からお弁当箱を出して蓋を開けた。
「見て下さいよ! これ、彼女に頼んで作ってもらったんです!」
「……へぇ」
須田のおかずは、形の良い玉子焼き、アスパラをベーコンで巻いたやつ、ミートボールにカップに入った野菜、それからミニトマト……見た目も栄養バランスも良さそうなお弁当だった。
「先輩も、お見合い相手の人に頼んで作ってもらえば良いじゃないですか。そしたら、毎日ハッピーですよ?」
「……ああ、そう」
そんな会話をしている時、ポケットのスマートフォンが震えた。僕は画面を明るくしてメッセージを確認する。そこには「お弁当、美味しかった。ありがとう」の文字が……。
僕は敦史さんの優しさに、思わず泣いてしまいそうになったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!