作戦開始

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***  それからも、僕は成功と失敗を繰り返しつつお弁当を作り続けた。どれだけしょっぱい玉子焼きを作っても、敦史さんは「美味しかった」としか言わない。謝罪をする僕に対して「ちょうど良い味だったぞ?」って笑ってくれる。  もっと、美味しいものを食べてもらいたい、満足してもらいたい。その一心で料理の本を買って研究したり、須田のお弁当をこっそり覗いて研究したりした。  今日は、土曜日。  月曜日に使う食材を買いに行かなきゃ。ジャケットを身に着けた僕を見て、敦史さんが言う。 「出かけるのか?」 「あ、はい。ちょっと……冷凍食品とかを」 「なら、車を出そう」 「いえ、バスで大丈夫です」 「空は、俺と出かけるのが嫌か?」  何だか前も同じような会話をしたぞ……。  嫌なんかじゃない。むしろ――。 「……敦史さんと行きたいです」 「よし、ちょっと待っていてくれ」  着替えるために自室に向かう敦史さんの背中を、僕はどきどきしながら眺めていた。スーツ姿の敦史さんも格好良いけど、普段着の敦史さんも素敵だから……。  僕は、消えているテレビの黒い画面を鏡の代わりにして、くるりと全身をチェックした。大丈夫。変じゃない。残念じゃない。 「お待たせ、空。行こうか」  季節はすっかり肌寒い日が続いている。敦史さんはぴしっと黒いジャケットでキメていた。 「それじゃ、デートをしよう」  微笑む敦史さんに、僕はただ頷くことしか出来なかった。
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