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「空!」
一番奥の席で敦史さんが手を上げて僕に合図をした。僕はそちらに向かって敦史さんと向かい合って座る。
「すみません。待っていてもらって」
「いや、気にしなくて良い」
それから看板で宣伝されていたパフェを注文した。注文を取りに来た店員さんが厨房の奥に消えた後、僕は「楽しみですね」と敦史さんに言った、が。
「……」
敦史さんはぼんやりと頬杖をついて出されたグラスの水を眺めている。どうしたんだろう。買い物で体力を消耗したのかな。僕はちょっとだけ声を張って「敦史さん」と呼びかけた。すると、はっとした敦史さんが僕の目を見た。そして、苦笑する。
「悪い。ちょっと考え事をしていた」
「いえ……あの、お疲れじゃないですか? 車の運転とか……」
「いや、疲れてなどいないから大丈夫だ」
「そうですか……」
「ああ」
「……」
「……」
謎の沈黙が走った。おかしいな。いつもなら、敦史さんが積極的に話をして空気を和ませてくれるのに。
もしかして、仕事のことかな。大事な案件があって、そのことを考えているのかな……。
僕はグラスの水をひとくち飲んで喉を潤した。あんまり飲むとパフェが来る前に身体が冷えてしまう。けど……。
何か、話題をと考えれば考えるほど頭の中がこんがらがる。こういう時、どんな話題が相応しい? ぐるぐると思考を巡らせていたその時、敦史さんが小さな声で僕に言った。
「さっきの女性だけど……」
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