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――え? それは、何に対しての「良かった」ですか?
そう訊ねようとした時、パフェが運ばれてきた。ケーキの乗ったそれを店員さんが慎重にテーブルに並べる。
「ご注文は以上でよろしかったですか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」
店員さんは一礼してその場を去る。そのタイミングで、敦史さんが先の割れたスプーンを手に取って笑顔で言った。
「パフェなんか、何年ぶりだろう。いただきます」
「あ、いただきます……」
パフェは思っていたよりも大きい。食べ終わるまでに溶けちゃいそうだ。まずはケーキを攻略しようと、僕もスプーンを手に取った。そして、緑色のスポンジを掬って口に入れる。
「……美味しい」
「そうだな。甘すぎることも無く、苦すぎることも無くちょうど良い」
さっきまでぼんやりしていたのが嘘のように、敦史さんはぱくぱくとパフェを食べ始めた。彼の会社で起こった、ちょっと面白い話を交えつつ……いつもの、敦史さんだ。余裕があって大人で素敵な敦史さん……。
僕は、考える。
さっきの「良かった」の意味は、その、つまり、僕と真紀ちゃんがくっつく心配が無いからの「良かった」だったら……?
僕が完全にフリーだからの「良かった」だったら……?
「ふぐっ!」
「空!? 大丈夫か!?」
「へ、平気です……」
僕は心を落ち着かせるために、グラスの水を飲んだ。
……もし、そうだったら。敦史さんが、僕のことを少しでも意識してくれているのだとしたら……嬉しくてどうにかなりそうだ。心臓、爆発しそう……。
僕は表情をわざと硬く作って、目の前のパフェをかき込むことに専念した。
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