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敦史さんは、しゃがんで女の子と視線を合わせて優しく言った。
「そうか。君なら素敵なお姉さんになれるだろうな」
「あ、当たり前だもん!」
真っ赤な頬のまま、女の子はウインナーの袋を取って、両親の元に駆け出していった。あんな小さな女の子まで惚れさせてしまう敦史さん……恐ろしい。
「微笑ましいな」
立ち上がった敦史さんが言う。僕は頷きながら、ぼんやりと敦史さんと僕、それから子供の居る風景を想像した。
昼下がりの公園。広げたビニールシートの上にはお弁当。親子三人で手を繋いで……って待てよ? 子供?
待て待て、子供は……無理だ。だって、僕たち、男同士だし……。
敦史さんと女の子のやり取りを脳で再生する。敦史さん、子供の扱い上手だった。きっと、良いお父さんになると思う。
「……ら。空……?」
「え?」
「どうした? ぼんやりして」
「あ……お弁当のメニューを! 考えていました!」
「……そうか?」
敦史さん、子供、欲しいかな……。
それなら、僕とじゃ無理だな……けど。
「空、顔色が悪い。どうした? 気分が悪いか?」
「……少し」
「いけない! 早く会計を済ませて帰ろう」
敦史さんが背中を支えてくれたので、僕はそれに甘えるように体重を預けた。
男同士って、難しい。って、まだ敦史さんの気持ちをちゃんと聞いてないのに悩むのって変だよね……。
複雑な思いのまま、僕は敦史さんの横顔をちらりと見た。敦史さん、ごめんね。幸せな家庭は無理かもしれないけど、僕はあなたのことを諦められそうに無いです――。
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