溶けるようなキス

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溶けるようなキス

 ぴぴぴぴぴ。  遠くで鳴る目覚ましのアラーム。僕は手探りでそれを切って、のろのろと起き上がった。  着替えて、エプロンをして冷蔵庫を開ける。いつもの朝。いつもの僕。 「……うーん」  何だか、調子悪い。首の付け根が痛くて、頭がぼんやりする。風邪気味かな……。  今日は手の込んだことは止めようと、僕は冷凍食品に頼ることにした。お弁当箱に詰める分だけお皿に取って、電子レンジで加熱する。くるくると回るターンテーブルを見つめていたら、くらくらと眩暈がした。  温まったそれらをお弁当箱に盛り付けて、最後にフライパンで玉子焼きを作ってそれを詰める。よし、完成……。 「ん……」  ガスの元栓を締めてから、僕はエプロンを取ってソファーに投げた。そして、その隣に横たわる。駄目だ、しんどい。風邪じゃなくて、ただの寝不足だと良いな……。  最近、余計なことばかり考えてしまって、熟睡が出来ない。内容は……敦史さんとのこと。  ショッピングモールの一件以来、僕は「幸せな家庭」についてぐるぐると悩んでしまっている。幸せな家庭っていったい何だろう。男と女で結婚すること? 子供が居ること? 皆の目から見て「普通」って思えること? 「……ああ」  僕は目を閉じる。  敦史さんと、幸せになりたい。  けど、それだけじゃ駄目なんだ。敦史さんにも、幸せになってもらわなければ。そう、それが一番大切なことだ。一番……。 「……敦史さん」  ――空。  僕を呼ぶ柔らかい声を思い出しながら、僕は意識を手放した。
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