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一秒もしない間に、くちびるが重なった。
僕は目を瞑る時間も与えられなかったけど、幸せな気持ちになった。つむじのあたりがぴりぴり痺れて、そこから全身に快感が広がっていく。
甘い、キス。
触れるだけで離れようとする敦史さんの腕を僕は掴んだ。
「もっと」
「駄目だ」
「欲しい」
「……そうやって、いつだって空は俺を――」
かき乱す。
そう言って、敦史さんは笑った。困ったように、笑った。
「……続きはまた今度だ。空、俺は今日早く帰るから、それまで休んでいるように」
そう言って、僕が返事をする前に敦史さんは部屋から出て行った。
残された僕は、そっと自分のくちびるに触れてみた。
「……キス、してもらった」
現実だったら、どれだけ幸福だっただろう。けど、良いんだ。今は……。
いつか、本当にしてもらうんだ。いや、僕からしても良い。そうだな、夜景が綺麗な場所が良いな。薔薇の花束なんか用意して……ふふっ。
「敦史さん……」
くちびるが、熱い。
視界がぐにゃりと歪む。ああ、眠らないと。あれ? 僕は今眠っているんじゃなかったっけ? 分からないや。もう、何も分からない。
僕は目を閉じて、枕とベッドに全体重を預けた。
夢の中なのに、もっともっと幸せな夢が見られる気がした。
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