溶けるようなキス

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***  喉の渇きで僕は目を覚ました。  ずきずき痛む頭を抱えながらゆっくり起き上がって自室から出てキッチンに向かう。今、何時だろう。えっと、お弁当を作らないと。それから、朝食を作って……ん? 「あれ? 敦史さん?」  キッチンにはエプロン姿の敦史さんが立っていた。菜箸で鍋の中身をくるくるとかき混ぜている。いったい、何を……? 「空。起きたのか。今、夕飯を作っているから待っていてくれ」 「は、はぁ……え? 夕飯?」  僕は壁の時計を見る。針は六を指している。だから、六時。けど、夕飯ということは……? 「え、今、夕方!?」  僕はリビングのカーテンを開けて外を見た。そこには朝の六時とは違った暗闇が広がっている。僕は血の気が引いて手の先が冷たくなるのを感じた。 「ね、寝過ごした……どころじゃない! 無断欠勤! ああ!」 「落ち着きなさい。空は自分で休むと連絡を入れていたぞ」 「え……え?」 「覚えていないのか?」  敦史さんはコンロの火を止めて、鍋の中身を器に移した。うどんだ。出汁の良いにおいが鼻をくすぐる。  座るように促され、僕はテーブルに着いた。 「朝から体調不良だっただろう? だから休むようにって俺が言って、空はそれに従ったじゃないか」 「あ……そんな気がしてきました。ああ、僕、記憶が曖昧で……」 「熱があったんだから仕方が無い。ほら、うどんを作ったから食べると良い。残しても良いから、食べられる分だけ胃に入れなさい」
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