溶けるようなキス

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 僕は「いただきます」を言ってからうどんに口をつけた。あ、美味しい……! これなら、全部、食べられそうだ。 「敦史さん、美味しいです!」 「それは良かった」 「お料理、やっぱりお上手ですね」 「俺は茹でただけだよ」  あっと言う間に僕はうどんを平らげて「ごちそうさまでした」と手を合わせた。それから、敦史さんが風邪薬とグラスに入った水を渡してくれたのでそれを飲んだ。 「ああ、ありがとうございます。風邪なんか滅多に引かないから調子が狂っちゃうな……」 「……」 「敦史さん?」  僕の向かい側の席に座った敦史さんは、じっと僕の顔を見つめている。なんだか照れくさくて、僕は余ったグラスの水に視線を移した。 「あの、敦史さんはご飯、食べないんですか? すみません、僕のことを優先させてしまって……」 「空」  硬い声でそう呼ばれ、僕は思わず背筋を正す。 「は、はい?」 「何か、忘れていないか?」 「えっ?」 「本当に、何も、覚えていないのか?」  えっ?  僕は何かを忘れているの?  そういえば……幸せな夢を見たっけ。敦史さんと……キスする夢。  ぶわっと熱が顔に集中するのが分かった。きっと僕の顔は赤い。駄目だ、見られたくない。僕は器とグラスを手に持って立ち上がった。 「ぼ、僕、これ洗ってきますね!」
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