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敦史さんは驚いたように目を見開いた。僕は続ける。
「覚えていますか? ショッピングモールで女の子と話しをした時のこと。敦史さん、子供の扱いが凄く上手で……良いお父さんになるんだろうなって思いました。そうなる為には、つまり……女性とじゃないと出来ないから。僕とじゃ、家庭を作れないから……」
「待て、空。家庭のすべてが子供と決まったわけじゃないだろう?」
「けど……」
「そもそも、俺は子供がそんなに得意では無いからな」
嘘吐き。
慣れてたくせに。
僕は黙って敦史さんから目を逸らした。敦史さんは僕の髪を撫でながら言う。
「年齢を重ねると、子供の扱いが上手くなるんだ」
「……」
「本当だ。この歳になると、友人の家に遊びに行くと子供が居ることがある。その時、一緒に遊んだり話したりする機会があるんだ。その時にいろいろと学ぶんだよ。空にも経験が無いか?」
「……あります」
二十代で結婚した友達の家に遊びに行ったことがある。その時、赤ちゃんが居た。僕はいないいないばあ、をして盛大に泣かれたけど、そうなのかな……だんだん、上手になっていくものなのかな。
僕は敦史さんの目を見た。その瞳は優しく細められていて、僕は泣きそうになった。
「空、キスがしたい」
「う……」
ぽろりと右目から涙が零れた。悲しいんじゃない。嬉しいんだ。感情が溢れて、もう我慢が出来ない。
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