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夜の勉強
「空、映画を観ないか?」
「あ、はい。観ます」
夕食後、敦史さんが買いたてほやほやのディスクを僕に見せる。それは海外の映画で……感動系のやつ。観たこと無いけど、ちょっと前によくテレビのコマーシャルでやっていたやつだ。
最近の敦史さんは、定時に近い時間で帰って来る。残業することはもうストップしているみたいで、僕と帰宅時間がだいたい一緒になっている。仕事を家に持ち帰ることもしないで、夜の時間は僕と過ごすことに当ててくれている。たぶん、仕事が原因で恋愛に失敗しているからだろう。ぼ、僕は別に敦史さんが残業しようが家で仕事しようが文句なんか言わないけどね! ……僕のことを優先させてくれているのは、嬉しいけど。
「空」
「……はい」
ソファーに並んで座り、僕は敦史さんにゆっくりと凭れた。優しく肩に回される手の温度が心地良くて、思わず僕は目を瞑った。このまま、寝ちゃいそう……。
けど、映画の開始十分で僕の涙腺は崩壊してしまったので、眠ることはかなわなかった。
「もう泣いてる」
敦史さんが笑う。僕はタオルを目に当てて鼻声で答えた。
「これ、絶対悲しいやつです!」
「そうか。ふふ……」
僕の背中を敦史さんが撫でる。撫でながら、彼は目を細めて唐突に言った。
「空、来週の休みは予定あるか?」
「……いえ、何も」
「じゃあ、付き合って欲しいところがある」
「買い物ですか?」
「いや……挨拶」
挨拶?
首を傾げる僕に、敦史さんは意味深な笑みを浮かべて僕のくちびるにキスをした。
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