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「ふう……」
「空、お疲れ様」
帰宅した時には夜の九時を回っていた。
あれから、敦史さんのご両親に交際の報告をしに行って、僕は散々、敦史さんのご両親に頭を下げられた。
『私たちも強引だったから、嫌々付き合ってるんじゃないのか?』
『よく考えて。あなたの人生なのよ?』
『やはり、無理矢理は良くない!』
そんな言葉を掛けるご両親に、僕は「あの、敦史さんのことを本当に好きになっちゃいました」となんの捻りも無い言葉で返した。馬鹿丸出しだ。けど、敦史さんのご両親は僕の言葉を聞いて、どこか安心したように笑ってくれた。そして――。
『ありがとう。息子のことを頼むよ』
差し出された手を握った時、心の奥がじんわりと熱くなった。あの感覚を、僕は一生、忘れないだろう。
それから夕飯をごちそうになって、帰って来たのがついさっきだ。敦史さんのお母さん、料理上手だったな……僕も負けないくらい、美味しいもの作りたいな。
そんなことを考えながらソファーに沈んでいると、敦史さんが浴室から出て来た。
「沸いたよ。先にどうぞ」
「いえ、僕は後からで……」
「良いから。たくさん緊張しただろう? リラックスしてくると良い」
僕は礼を言って立ち上がった。
自室に向かって、着替えを取る。そんな僕の頭の中に、ふと、母の言葉がよみがえった。
――ま、何事も勉強よ。知識はあった方が良いわよね。
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