黒いもの

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 黒いものが見えた。あれはなんであろうか。わからない。触れてもいいものだろうか。手を伸ばそうとしたとき、背後から飛んできた矢によってそれは打ち抜かれた。 「それに触れると死がつくぞ。」  それを射止めた男が背後から声をかけてきた。死がつく、とはどういうことだろう。死ぬのとは違うのだろうか。考えていると、男はお札を一枚差し出して、一週間は持ち続けるようにと言った。一週間が過ぎたら、神社まで持ってくるように残して、男は去って行った。今日はお祭りだったのに、なんだか暗い気分になる。言われたとおりにお札を持って帰ることにした。なんだか気味が悪かった。どこかから視線を感じるようで気味が悪い。一週間ぐらいそれは続いた。一週間が過ぎると、視線を感じることはなくなった。なんだったんだろう。神社までお札を持って行くと、あの時の男が現れた。重たそうな着物を身に着けている。 「もうすっかり離れたようだな。」  そう言って、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。不服そうに見上げると、にこりと微笑み説明してくれた。あの黒いものは怨念が具現化したもので、触るとその人について回り、不幸を振りまくらしい。何人も犠牲となって、その人たちの恨みもどんどん飲み込んでいく。ややこしいもの。あれは大きくなりすぎて、憑かれると周りの人たちに死が訪れる可能性があったらしい。だから、死がつくだったのか。一週間お札を持たされたのは、倒しきれなかった怨念がつけまわしていたからだそうだ。視線を感じたのはそういうことだったのか・・・。 「もうあきらめたようだが、得体のしれないものに簡単に近づくのはやめておけよ。どんな恐ろしいものか、見た目ではわからないからな。」  またぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。それから半月程経って、またお祭りの日がやってきた。屋台でカルメラを買って食べていると、またそれを見つけた。黒いもの。屋台と屋台の隙間から村の人を見ている。選んでるみたいだ。誰を引き込むのか、見定めているみたいだ。 「しつこい輩だな。君を探しているようだ。」  男が矢を構える。人込みでそんなことをしたら、大騒ぎになるはずだ。なのに悲鳴の一つも上がらない。周りの人には見えていないのだと、その時初めて気が付いた。放たれた矢が、人をよけて飛んでいく。まるで生きているみたいに。それは確かに、黒いものに突き刺さった。シュゥゥゥゥ・・・と塩をかけられたナメクジのように、溶けていく。いろんな声が聞こえた気がした。男がこちらを見ている。 「よほど気に入られているようだな。気を付けたほうがいい。君みたいなのが、一番連れていかれ易いからね。」  男は人混みに消えていった。足元に何かが落ちる。みると食べかけのカルメラが蟻の餌となっていた。これは食べれないな。あきらめて、帰ることにした。何に出会うかわからないから。
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