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金曜の夜だというのに残業で帰りは終電ギリギリ。
まぁいつものことだが、金曜日となると多少心持ちが違ってくる。
平日の鬱憤を撒き散らすかの様に大声で喋る酔っ払いのサラリーマン、
女子会帰りなのかまだまだ話足らず気味で立ち止まって大笑いする女子集団。
そんな人々を横目にうつむき加減で早足に通り過ぎる俺。
決して急いでいるわけではない。急いだって誰かが帰りを待っていてくれるわけでもない。
ただその場から早く抜け出そうと早足になる。
やっと繁華街を抜け右に進むと静かな住宅街が広がり少し落ち着く。
通りには人影もなく静かだ。
暫く歩くと小さな公園があって、ポツンと立つ華奢な街灯がその小さな公園の入口辺りを消えそうな光で照らしている。
まるで此方へどうぞと促されるように公園へ入り正面にあるベンチへと俺は吸い込まれていく。
「はー、、、疲れた」
呟いた後両手を上げ伸びをしてそのままベンチの背もたれへと堕ち崩れ天を仰ぐ。
「あっ、月」
まん丸な月が俺の顔を見下してきた気がして、めんどくさいがきちんと座り直す。
「あんたはただ綺麗に輝き、下々の俺達を上から見下ろしてさぞ眺めはいいでしょう」
不貞腐れた様に声に出てしまう。
仕事のしすぎだろうか、どっぷり疲労した身体は月明かりに照らされまるで最期の花道への入り口の様に明るくて暗くて重い。
「はぁ、、、」
内ポケットのスマホが丁度良い静寂を撃ち破り迷惑に鳴り響く。
「もしもし、月部長どうしましたこんな時間に?」
「今どこ?会社戻って大至急確認してほしい事があるのよね」
「えっ、あっ、いや、でももう電車がないから行けないっすね」
「タクシーあるでしょ、頭使って〜
着いたら電話ちょうだい、よろしく」
プチっ
月明加里部長の下、俺は月明かりに見送られただひたすら走った。
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