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支配された闇から解き放たれ、淡い月の光が優しく出迎える。
その池の水面には月が映る。天にあるはずの月が、その池に静かに揺らぐことなく閉じ込められていた。
それから青年は池の月を見に通うようになり、ある日、気づいたのだ。自分と同じようにその月を見下ろす少年がいることに。
彼は満月がよく映える日から三日間の立ち待ち月まで出没する。
出没する、はおかしい表現だろうか。でも、そうとしか表しようがない。
深夜の11時前。車やバイクでないと来れない場所。そして立ち入り禁止の森の中。その条件下で小学高学年くらいの少年がひとりでぽつんとそこに座っている。
月の白い光に照らされ、少年の細い手足や幼さを残す顔立ちはどこか神秘的にも見えて、初めて見た時はこの世の者ではないと息を詰めた。
それは今も半分くらいそう思っている。
枯れ枝を踏みつけパキッと折れる音がしても、草木を押し付けガサゴソ歩いても、彼はただ池の中にある月を眺める。
一度、勇気を出して「おい」と話しかけてみたが、彼はこちらを見る仕草さえなくただそこで月を見ていた。
耳が聞こえないとか、そんなレベルではない。見えない何かが自分との間に隔ててあるように少年は動かない。認知しない。
同じ場所に立っているのに、違う場所にいるようだ。ただ、視界に映るものが一緒というだけのように思えた。
この世の者ではないのか。やはりそう思った。
だけど、不思議と怖くはなかった。同じ月に魅入られた者同士だからだろうか。
今では月を見に来ているのではなくて、少年の方が気になって足を運ぶようになっている気がする。
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