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4月
高校2年の春。私は志望する大学に現役合格することを目標に、受験勉強に明け暮れていた。高校生が勉強することは、普通のことのはずだった。
ところが、新学期から隣の席に座っていたアヤカは、一日何度も私に同じ質問を繰り返した。
「リサは、どうして勉強ばっかりしているの?」
「勉強したらいけない?」
「みんなと仲良く遊んだりすることも大切じゃない?」
「時間があればね。」
私が通う田舎の高校では、進学する生徒と就職する生徒が半々だった。進学すると言っても、推薦入学できる専門学校や私立大学を希望している生徒が大半で、受験勉強する生徒は少なかった。
私には夢があった。建築工学を学び、建築デザイナーになりたいと思っていた。そのために行きたい大学があった。受験戦争で戦わねば希望は叶えられない。受験など無関係に高校生活をエンジョイしている同級生のみんなと仲良く遊ぶ余裕はなかった。
休み時間、多くの生徒は仲間でガヤガヤ雑談しながら、おやつを食べたり、本を読んだりしていた。私は休み時間くらい椅子から離れて体を動かしたかった。トイレに行ったり、中庭まで行って芝生に寝転がったり、昼休みにはグランドの奥に広がる林まで行って木漏れ日を浴びながらストレッチした。
友だちが欲しいとは思わなかった。周囲に友だちになりたいと思う人がいなかった。
まったく話す相手がいない訳ではなかった。部活動では、化学部に所属していたが、3年のミノルとは仲良くしていた。ミノルは皮膚が浅黒くてキメが粗く、どちらかといえばキモイ顔立ちだった。そのため彼は気持ち悪い存在としてイジメの対象にさえなっていたが、成績は優秀だった。貧しい母子家庭だったので公務員試験を受け、一度、職に就いてから上を目指したいと言っていた。
昼休みや放課後、化学準備室でミノルとたわいもない話をすることはあった。土日には、いっしょに映画に行ったり音楽イベントに参加したり、軽いデート的な時間を過ごしたりもした。
彼は幼い頃に父を亡くし、アルバイトしながら母との暮らしを支えて来たからか、同じ年の生徒に比べ大人だった。二人で過ごしていて、安心感はあったがトキメキは感じなかった。
アヤカは私に言った。
「ミノルと付き合ってるの?ミノルとは仲良くしてるのに、クラスのみんなとは仲良くしたくない理由でもあるの?」
「ミノルは大人だから。話していて安心できる。同じ部活だし。クラスのみんなと仲良くしたくない、とは思わないけど。勉強しなきゃ時間がないし。それは私の自由でしょう?」
「自由じゃないと思う。せっかく同じクラスになって、せっかく私の隣の席になったんだもの。もっと仲良くしたいな。」
ウザイと思った。隣の席に座っただけで仲良くしなきゃならない理由なんてない。私は、彼女の言葉を無視して問題集を解き続けた。
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