<第六話・越境の魔術師>

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 物凄く厨二で、現実離れした話をされている。正直信じがたい内容ではあった。しかし。  説明する美鶴の目は真剣そのもの。何よりここまで練り込まれた作り話を、ただの幼稚園児ができるとも思えない。花蓮は黙って耳を傾けることにする。 「といっても、私は自分で望んで魔術師になったわけではないし、今の私に使える魔法などたかが知れたものであるしな。元々は科学者で、君達の言うところの異星人と呼ばれる存在だったのだよ。が、ある日戦争で私達の惑星であるイクス・ガイアは跡形もなく焼き尽くされてしまってね。私も命を失ったはずだったのだが……気付いたら、以前の記憶を保持したまま別の器に転生していたのだよ。うむ、いわゆる君達がライトノベルで大好きな“異世界転生”とやらをしたわけだな」  こいつ、ライトノベルが好きなんだろうか。例えが的確すぎるのだが。やや花蓮が白目になっていると、それに気づいたのか美鶴はひらひらと棒を振って見せた。 「ちなみに私はライトノベルなら“ゼロから成り上がる異世界騎士”が大好きでな、あのご都合主義かつぶっとびすぎた設定に痺れたもんだ!ちなみにナカゴ村のレナちゃんが私の嫁だな!」 「聞いてねーよ!ていうかあの作品でレナ嫁とかどんだけ読み込んでるんだよマイナーキャラだろが!あれ序盤にちろっと出てくるだけの田舎の町娘じゃなかだたっけ!?」 「花蓮も読んでるのか、嬉しいぞ!……まあそんな脱線は置いておいて」 「誰が脱線させたんだ、誰が!」 「現実で異世界を渡る方法は主に二つ。転移するか、転生するか。そこはライトノベルと同じだが、実際は神様のご都合主義のチート展開などないどころか、非常に制約だらけと来ていてな」 「もしもーし?」  こっちのツッコミは完全にスルーらしい。段々と花蓮は美鶴(本名はエルゲートとか言うらしい)のキャラを把握しつつあった。  きっと、本来はそれなりの年のジイさんだったに違いない。人を煙に巻いて笑っているあたり、絶対そうだろう。 「転移すればそのままの肉体で、今までと同じ力を使えるが……それで“成せる事柄”に大きな制限が生じる。異世界の人間は、本来の世界の人間の“物語”をけして邪魔してはならないからな。桃太郎をさしおいて鬼退治をしてはいけない、とでも言えばいいか。それをやって本来の物語の主役達の活躍を妨げたら最後、世界が歪み崩壊を招く危険性がある。当然、ねじ曲げた転移者も罰を受けることになるのだよ」  どこかウキウキとした手つきで、美鶴は地面に桃太郎と鬼の絵を描いていく。地味に上手い。
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