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つんざくような目覚まし時計の音で、叩き起こされた。何だか妙に懐かしい音だ。子供の頃使っていて、数年前に壊れて捨てた時計が確かこんな凄い音をしていた気がする。
「う、うん……」
布団にくるまり、寝ぼけた頭で花蓮は思う。まだ自分は夢を見ているのかもしれない、と。いや、そうでなくてはおかしい。だって、最近は朝起きる時、スマートフォンのアラームしかかけていないのだ。目覚まし時計などここ何年も使っていないし、当然セットするはずもない。“みつるくん”の夢を見たから、そのせいでまだ子供の頃の世界にいるのかもしれない。
――あー……うっせぇ。誰か止めてくんねぇかな、マジで。
布団に潜り、耳を塞ごうとした次の瞬間。
「ほら花蓮ちゃん!起きて!今日も幼稚園あるんだから!」
優しいぬくもりは、無情にも母の声とともに強引に剥ぎ取られた。何すんだ、と不機嫌に目を開けようとして、はて?と内心首をかしげる花蓮である。
今彼女は、“幼稚園”と言わなかったか?
――母さんよ。ついにボケちまったのか?まだ五十歳にもなってねーのに、ボケるのはちょっと早すぎるんじゃねーの?
が、同時にもう一つ疑問。
少なくとも高校に入ってから――母が自分の部屋まで来て、起こしに来たことなど一度もなかったはずなのだが。なんといっても、不良じみた生活をしている花蓮である。チームの総長になってから、娘の不規則すぎる生活に彼女らも完全に匙を投げて放置していたはずだったのだけども――。
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