<第四話・女総長、逆行す>

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「ちょっと、そんな言葉どこで覚えてきたの!?ダメじゃないの、女の子がそんなはしたない言葉使ったら!どこかのアニメで見たの?それとも漫画で読んだの?他の男の子の真似?ダメよ、そういうのは良くないんだから!」  ああ、そうだった。子供の頃の母はこんなかんじで、自分も可能な限り女の子らしい立ち振る舞いをするように気を付けようと努力していた気がする。そのせいもあってか、元々の気弱な花蓮の性格もあってか、幼稚園の頃の花蓮は相当上品な女の子らしい女の子であったのではなかったか。  まあ、そんな母も、花蓮が中学生になり高校生になり、今の有様になってからはモノを言う気も完全に失せたようだったが。 ――え、待って。俺もしかして、人前ではナヨナヨした演技しないとダメな奴?この俺が、“かよわい幼稚園児のロリ”をやんないといけないってこと?……まぢで? 「う、うん。わかった……よ」  カチコチとぎこちない動作で箸を持ち、どうにか味噌汁のお椀を持つ。苦手なネギは、汁と一緒に流し込めばなんとかクリアできると学んでいた。とにかく適当に油揚げや豆腐と言った普通に食べられる具を平らげると、最後に苦手なネギだけを汁と一緒に喉に流し込むことにする。するとそれを弁当を詰めながら見ていた母が、感激したように声を上げた。 「花蓮ちゃん、お味噌汁飲めるようになったのね!」 「え」  そういえば、ネギ入りのお味噌汁をどうにか飲み込めるようになったのは、小学校に上がってからであったような気がする。それまでは、そもそも味噌汁が嫌いな原因がネギにあると気づいてなかったがために、全部を残してしまって叱られてばかりだったような。 「偉いじゃない、これでまた一つお姉さんになったのね!それに、箸の持ち方もとっても上手よ!!」 「あ、はは……」  そうだ、幼児というものはこういうものなのだ。普通の親ならば、ちょっとしたことができるようになっただけで感激してくれるし、褒めてくれるというものなのである。  その中身が、ギャングチームの現総長を務める女番長だから、微妙なことになっているというだけで。 ――と、とにかく。夢なら夢が覚めるまでがんばらねーと。  混乱しながら、引きつり笑いを浮かべる花蓮。もしも夢が覚めないというのなら――いやその可能性は考えたくないが――もしもこれが本当に現実というのなら、考えなければならないだろう。どうすれば、このヘンテコな世界から、元の世界に戻ることができるのか、を。
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