<第五話・プレリュード>

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<第五話・プレリュード>

 ひまわり丘幼稚園は、隣に協会を隣接するカトリック系の幼稚園である(花蓮には多分カトリックであったはずだ、くらいの認識しかないわけだが)。朝はまずみんなでお祈りをすることから始まり、その日の歌の時間やお遊戯の時間が始まるというスケジュールだ。  幼稚園によって一日の動きというのは異なるのだろうし、日によってもまちまちだろうが。その日はお祈りに始まり、みんなでお歌を歌う時間になる。この頃の記憶など曖昧でしかないので、どうやらこの頃は曜日ごとに違う歌を歌うというスケジュールが組まれていたらしいと察する花蓮。今日歌ったのはお約束のきらきら星の歌だった。 ――幼稚園児に混じって歌ってる俺……テラシュール……。  恥ずかしさで顔を赤くしつつも、花蓮は周囲を見回す。おひさま組の先生の弾くピアノにあわせて、園児達が力いっぱい声を張り上げている。とにかく音楽を壊すことも厭わないほど、大きな声を出すことが一番だと信じていた頃。昔の、リアルタイムの自分ならば同じようにとにかく大きな声で歌おうと頑張ったかもしれない。声が大きければ大きいほど、先生に褒めて貰えることを知っていたからである。  そんな中――彼は、どこか目立っていた。声が大きいのではなく、逆だ。一人、静かに、真面目にリズムと音感を合わせて歌っていたからである。 ――間違いない。美鶴君、だ。  千堂美鶴。幼い頃の花蓮にとっては唯一無二のヒーローであり、初恋の相手であった少年。  少し長い髪を後ろで一つに縛り、淡々と恥ずかしがることも威張るでもなく歌う彼。合唱の中一人だけ音が大きく外れた生徒がいれば目立つものだが、逆も然りであるらしい。一人だけ、とても綺麗に音を合わせて歌う少年はある種異質なものであった。キラキラ星のメロディーが、彼の回りだけ確かな輝きを放って踊っているかのようである。  横顔からでも、分かる。イケメンどころか――あれは典型的な“絶世の美少年”の類であるということが。少女めいた静かな顔立ちは、まっすぐ演奏する先生の方を見つめている。初恋フィルターがかかってイケメンで覚えていた、だけではなかったということだ。というか、覚えているよりもずっとイケメンだった。大きくなれば、どれほどの美青年になったことかと思うほどに。
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