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――でも、美鶴の時間は、今年の冬で終わっちまうんだ……。
この世界は、一体何なのだろう。自分は本当に逆行してしまったのか。それとも、自分の記憶にある世界とは少し違ったパラレルワールドとやらに落ちてしまったのか。
もしもそうならば、美鶴少年が死なない可能性はあるが。その原因がはっきりしなければ、元の世界に戻ることもできないのは間違いない。似たようなライトノベルを思い出し、花蓮は憂鬱な気分になった。あのテの小説ときたら、大抵トリップやら生まれ変わりやらなりかわりやらが起きても、真相がはっきりしないまま物語が終わってしまうのがテンプレートであるものだから。
それどころか、転生・転移した主人公は大抵、元の世界になんか戻れなくていいや、という謎の未練ゼロ状態であることも少なくない。
――冗談じゃねえ。
花蓮は一人、拳を握り締めた。
――幼稚園生活ってのもまっぴらごめんだが。それ以上に、元の世界に戻らないわけにはいかねーんだよ。俺には、俺を待ってるチームの連中がいるんだから……!
どうしてこんな大変な時に、こんな訳の分からない事態に巻き込まれてしまったのか。自分は早く帰って、ヘル・オーガとそのバックにいるであろうヤクザの脅威から仲間達を守らなければならないというのに。こんな謎の世界で、時間を浪費している暇などないというのに。
――とりあえず、普通の園児を演じて……この状況の謎を解かねえと。絶対諦めねーぞ。俺は、何がなんでも元の世界に帰ってやるんだ……!
先生に向き直り、少しでもそれらしくせねばと自分も歌に参加する。
そうやって花蓮が視線を外した途端――こちらをじっと見つめた人物の目があったことに。花蓮はその時は、気付くことができなかったのだった。
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