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――美鶴は、バスコースじゃなくて……歩きコースの園児だ。俺らと違ってクリスマス会の日も、親に送られて家に帰ったはず、だよな。
しかし、親は特に怪我をした様子もない。被害に遭ったのはあくまで美鶴一人であったはずである。では、どうして美鶴一人が攫われることになったのか。親が目を話した隙に、どこかで拉致されたのか?幼稚園から美鶴の家までの道のりはそんなに長いものなのか?それとも、送り迎えは車であったのか自転車であったのか?
――このへんは、美鶴本人にしかわからない、よなあ。いや今の美鶴に聞いてもわかるはずねーけど。……あーていうか、普通に考えればこんな程度のことはとっくに警察が調べてるはずなんだけど。犯人が捕まってないのは何でなんだ?当時の警察が、そこまで無能だったとは思えないんだけどよ……。
歩いているうちに、花壇の端まで来てしまった。ふと視線を落とせば、花壇にはそれぞれ“さくら組”などのプレートが置かれている。そよそよと揺れている綺麗な黄色っぽい花がなんであるのかはわからないが、そういえばクラスごとに花壇に種を植える作業というのをやったような気がする。おひさま組、の花壇もどこかにあったりするのだろうか。
そういえば、どうしてうちの幼稚園は、年長のひとクラスだけ“おひさま組”なのだろうかと思う。他のクラスはみんな、植物の名前で統一されているというのに。
「おい」
「!」
唐突に後ろから声をかけられ、ひっくり返りそうになった。はっとして振り返り、花蓮は目を見開く。
いつからいたのだろう。今まさに、花蓮を思い悩ませている張本人――千堂美鶴が、静かな眼差しをこちらに向けて立っていたのである。
「み、美鶴君……いつからそこに……?」
「ふむ。……どうやら、きちんと成功したようだな。入れ替わった魂がきちんと透けている」
「は?」
「ああ、まずは挨拶をしておくべきだったかね、これは失礼」
子供の声で、しかしどこか老成したような喋り方をして――彼はにんまりと笑った。そして。
「久しぶりだな、七塚花蓮。歓迎するよ、逆行者。というか……君を、十一年後の世界からこちらに呼んだのは、他ならぬこの私なのだがね」
とんでもないことを、あっさりとのたまってきたのだ。
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