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<第六話・越境の魔術師>
花蓮は口をあんぐり開けてフリーズする他ない。自分が逆行してしまったのは誰かの意思なのかもしれないとは推測していたが――それがどうして、もうすぐ死ぬかもしれないとわかっている初恋の少年(それも幼稚園児)の仕業だなんて思うだろうか?
「……え、えっと、その……」
とりあえず、ほっぺをつねる、というお約束をやってみる。普通に痛い。
ついでに頭をごつんと拳で叩いてみる。目の前に火花が散った。やっぱり痛い。
「……マジ?」
結果、出てきたのはそんなしょうもない言葉のみだった。美鶴はにんまりして“マジだぞ”と告げる。可愛らしいショタの見た目に相応の幼い声と、しゃべり方と威厳のギャップが大変素晴らしいことになっている。花蓮でなくても大混乱だ。
「まあ、そう驚くのも無理はないのだがね。私もこの力はそうそう使えるものではない。制限も大きいし、呼べる存在は一人だけなのだ」
「……ごめん、ちょっと待って。マジ待って。これ本当に夢じゃねーの?そういうオチにはなんねーの?」
「なんだ、散々頬をつねったり頭を叩いたりしたくせに信じられないのか」
「いや、だってさぁ……」
そもそも、目の前の少年のこのしゃべり方である。確かに大人びた少年だと言う記憶はあったが、さすがにこんな老人のような話し方などしていなかったはずだ。幼稚園児がこんな、どこかの博士みたいな話し方をしたら確実に目立つし先生もちょっと心配したに違いないのだから。
「信じられないのも無理はないが、信じて貰わねば困るな。多大な労力を使って君を呼び寄せた意味がなくなってしまう。……仕方ない、初めから説明させてもらうことにしよう」
少年はてとてとと歩いていくと、花壇のある煉瓦の道から、桜の木の植えられている土の上にまで移動した。そして適当に木の棒を拾うと、そこに綺麗な字で文字を書き始める。
「この世界は、“ひとつ”ではない。いわゆる君達が小説で読むような“異世界”なるものは、数多く点在しているのだよ。ただ、それぞれの世界をは基本的に不干渉だ。移動できる手段も多くはないし、それが実行できる人間はごく僅かでしかない。世界を移動できる者のことを、私が元いた世界では“旅人”や“魔女”、“魔術師”と呼んでいた」
「……お前も、その一人だって言いたいのか?」
「話が早くて助かる。そうとも、私もそんな世界を渡る魔法使いの一人。“越境の魔術師”エルゲート・セーファというのが私の本来の名前だ」
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