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「そもそも、私は死ぬ運命だ。命で払える額などさらにたかが知れている。……ゆえに、この世界も正確には“お前が実在した過去”ではないのだ」
言いながら美鶴が描いたのは、一つの縦長の長方形だ。上には未来、下には過去と文字が書かれている。
「非常にシンプルな図だが、これを人の生きる世界、歴史の流れというものだとしよう。私は現実のこの世界で死んだが、自らの死んだ理由がわからず短い人生で得るものがなかったことを非常に後悔していた。ゆえに、ここにもうひとつ小さな箱を作ることにしたのだ」
縦長の長方形の横に、掌大の小さな正方形を描く美鶴。
「私たちがいるのは、この小さな正方形。本来の世界からコピーされ、同じように運命と事象が動く……いわば箱庭のようなものだ。期間限定のパラレルワールドと言ってもいい。今日から、私が死ぬ時まで限定の世界だ。お前は正確には逆行したのではなく、未来のお前の魂を私がコピーしたこの世界のお前の器に投げ込んだというのが正しい。現実のお前は、家のベッドでぐーすかと寝ている真っ最中なわけだ」
「それ、つまり昏睡状態ってことか!?」
「安心しろ、この箱庭の流れる時間は現実よりも圧倒的に早い。こちらの世界が終わる頃、丁度お前が目を覚ます時間になり、お前の魂も元の自分に戻る。家族や仲間がお前の異変に気づく心配はない」
「よ、良かった……」
どうやら、一応帰れる見込みはあるらしい。同時にこの世界は自分達の本来の歴史と直接繋がるものではないようだ。二重の意味で安堵する花蓮である。
「安心したようで何よりだ。この世界は、現実の世界で起きた歴史を忠実になぞるが……それは我々が一切介入しなかったらの話だ。私達の行動しだいでこの箱庭の物語は変わることになる。ただし、最終的にクリスマス会の後私が死ぬことになることだけは変わらない」
「な、なんでだよ」
「それが私が、この箱庭を作るために課したルールで、対価だからだ。私は既に現実で死んでいると言っただろう?その上で、真実を知るために箱庭を再構築し、お前という存在まで呼び寄せたのだ。もう一度殺される苦痛くらいは味わなければ、対価として釣り合わないのだよ。それが魔法と言うものだからな」
「………それって」
気持ちが一気に沈み始める花蓮。何故なら、彼が言うことはつまり。
「それって、どれだけの意味があるんだよ。お前を助けることもできないのに、真実だけ調べて知って……一体何になるってんだ。もう一度殺されるんだぞ。怖くないのか」
花蓮としては、至極真っ当な質問をしたつもりだった。ところがそれを聞いて美鶴は、弾けたように笑い出すからたまらない。
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