<第七話・箱庭のルール>

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「何を馬鹿なことを!私は何百回も人生を繰り返している転生者だと言っただろう?それが一度増えただけでどうということなどないさ」 「けど……!」 「真実を知る。それは私にとっては命を賭ける意味も、苦痛を賭ける意味も持つ行為なのだ。研究者としてその探求心を捨てたら最後、本当の意味で私という存在は死んでしまうことになるのだからな」  それに、と彼は続ける。 「そうやってがむしゃらに手にした真実や情報は、案外未来で誰かの命を救うことになるかもしれんぞ?それは意味のあることではないか。ただ、救われる誰かが私以外の存在である、それだけのことだろう?」  どこか楽しげでさえある笑みで宣う美鶴。花蓮にはわからなかった。自分は彼のように死んだこともなければ、死ぬかもしれないという経験もない。苦痛もない。だから想像が出来ないのだろうか。――死の苦しみも己の犠牲も度外視で、見知らぬ誰かの役に立つために奔走する、なんて行為を。  花蓮とて、誰かのためにと戦ったことがないわけではない。けれど、正直なところ今まではっきりと“命懸け”になるほどの敵と対峙したことはなく――そもそも今までの喧嘩は全て、仲間を守りたい“自分”のためでしかなかったことである。それもはっきりと、結果が見えるやり方ばかりだ。  役に立つ保証もないことのために頑張るなんて。そんなこと、自分にはとても真似できないと言わざるを得ない。 「……お前が何を望んでるのかはわかったよ。俺に何を期待してるのかも。正直まだ、全部は信じきれてねーけど」  そう、だから。花蓮が本当に気になっていることは、あとひとつなのだ。 「どうして、俺なんだ」 「ん?」 「自分が死ぬ事件の真相を知りたい。そのために力を貸してくれる存在がほしい、そんなところなんだろ?どうして俺だ?この世界では幼稚園児でしかないし……確かに俺は未来じゃギャングチームのリーダーとかやってっけど、それだけの、普通の女子高生でしかないぜ?」  まあ、多少身体能力と喧嘩の腕が“普通”でないことは認めるが。こういう現場で役立つのは、どちらかといえば探偵のような頭脳面ではないだろうか。  少なくとも十一年前の時点で大人だった人間に手助けを求めれば、もっと簡単に事は運んだかもしれないというのに――。
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