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<第八話・トンデモ幼稚園児>
腑に落ちないものはありつつも、結局のところ人助けそのものは嫌いではない花蓮である。おまけにそれが、初恋男子の頼みとあれば尚更だ。時間がすぎればとりあえず帰る目処は立つというのなら、そのタイムリミットまで彼のお願いを聞くのは悪い話ではない。まあ、残り数ヶ月を、幼稚園児として過ごさなければならないというのは複雑な気持ちであったけれども。
ただ、その話を美鶴から聞いたその日のうちに、大きな問題が露呈することになるのである。一度目は、運動会の練習のために、園庭で先生に言われるままかけっこをしていた時のことだ。
――まあ、今の俺は園児だし、当時の俺も運動神経悪かったもんなあ。本気で走っても、大した速度じゃねーだろ。
一応真面目にやるには限るということで、花蓮はそこそこ本気でかけっこを走ってみせたのだが。
「……あ、あれ?」
ゴールまで到達した時の、周囲の反応。花蓮はゴールラインを割って振り返ったところで、一緒に走り出したはずの園児達がまだスタート近くを一生懸命駆けていることに気づいた。
先生達が、みんなして唖然としている。どうやら自分は、ダントツぶっちぎりでかけっこをゴールしてしまったらしい。
――や、やっちまった!ていうか、何で!?
この後、先生達からは派手にお褒めの言葉を貰ったわけだが。勿論花蓮としては、素直に喜ぶことなどできるはずもないのだった。最終的に、足が一番速い自信があった悪ガキ男子の一人が泣き出してしまったから尚更気まずいというものである。
おまけにこの悪ガキが、花蓮によほどムカついたのか直後に喧嘩をふっかけてきたから面倒くさい。
「おまえ!いっつもおそかったくせに、なんで今日だけはやいんだよ!なんか、ズルしたんじゃねーのか!」
真っ赤に腫れた目でそんな風に怒鳴られても、怖くもなんともないわけだが。元々の、オリジナルの幼稚園児だった頃の花蓮なら、そんなしょうもない男の子の威嚇も怖いと思ったかもしれない。
他の悪ガキ達も、花蓮の圧倒的な走りを見てやはり同じことをしたと思ったのか、ズルしたんだろ、そうに決まってる!とやんややんやとはやし立てる始末。子供だからそういう考え方に行ってしまうのもしょうがないと思いつつ、花蓮は少々困ってしまったのだった。一体こういう子供達には、どう説明すればわかってもらえるものなのだろうか。
子供は嫌いではない。嫌いではないが、あまり得意でもない花蓮である。なんといっても、自分自身の力が強すぎるのだ。小さな子供を傷つけないように扱うのは、本当に難しいものである。今の花蓮ならば、多少喧嘩などをしてもそういうトラブルは起こりにくいのかもしれなかったが。
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