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幼い頃はおしとやかで、虫も殺せない小さな少女だった花蓮。
それではいけない、と思うようになったのは――幼稚園の時の、あの事件があったからだろう。
そう、初恋の相手だった“みつるくん”が、何者かの手によって殺害された、事件。大人達は必死で、彼の惨たらしい死を隠そうとしていたようだったが――子供は存外、大人が思っているよりも聡明な生き物なのである。
はっきりと“殺された”と誰も口にはしなかったが。ニュースと、警察の物々しい雰囲気でおおよそ分かってしまったのだ。そして、彼の葬式にも呼ばれなかったのはつまり、そういうことだったのだろうと今ならわかる。彼の遺体は、幼い友人達に晒せるような状態ではきっとなかったのだろう、と。
何故、“みつるくん”が殺されなければならなかったのか。
犯人は一体、誰だったのか。
その答えは結局謎のまま。確かなことは彼が――大人の、圧倒的な“強者”の暴力に晒され、理不尽にその命を奪われたのだという事実のみだった。
全てを理解できずとも、花蓮は悟ったのである。自分はもう、みつるくんに助けてもらうことはできない。これからは、自分の身は自分で守るしかないのどと。
そして。――みつるくんのように、壊されたくないのなら。弱者でいてはいけない――誰にも負けない、無視されない、強い力を身に付けるしかないのだと。
花蓮は両親の反対を押しきり、空手道場に通わせて貰うようになった。そして、きっと彼が生きていたならそうしたであろう分まで、誰かを助けることのできる存在になろうと誓ったのである。
その結果、不良に絡まれていた少年を助けたことを皮切りに――何故か、ギャングチームのリーダーなんてものをやることになってしまっているわけだが。それも、女性らしさの欠片もない、ムッキムキで男勝りの女子高生として。
――“みつるくん”が今の俺見たら……きっとひっくり返るよなぁ。
足下に転がる連中を適当に蹴飛ばしつつ、花蓮はため息をついた。窓ガラスには、ぼさぼさの長い髪にがっしりとした体躯を誇る――まるで女子高生のコスプレをしたようなイキモノが映っている。マッチョにも程があるよな、と笑うしかない。まあ、身体をここまで鍛えたからこそ、不良軍団を秒殺することもできるようになったというわけだが。
「く、くそ、が……」
散々殴り飛ばされ、情報を吐かされた高坂がボコボコに腫れた顔で呟く。地面に這いつくばり、立ち上がることもできない有り様は実に情けないもので。
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