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「ば、バケモンが……このやろ……」
「そうだな、化け物かもな」
言われ慣れた台詞だ。吐き捨てるように花蓮は告げた。
「それでも、お前らと違って……悪魔に魂、売った覚えはねーんだよ」
果たして花蓮の言葉を、長年チームを引っ張ってきた少年はどんな気持ちで聞いたのだろうか。
黙りこんだ彼を残し、花蓮はすたすたとその場から歩き出す。もう彼らも、これ以上ブラッディ・ローズとその縄張りで悪さをしようとはしないだろう。工場を出て、スカートをまくり、愛車に跨がってエンジンをふかす。
今回は一人でカタをつけたが、次からは仲間を連れてきた方がいいかもしれない。レッドスパイダーなど、自分達が倒すべき本当の敵の末端組織に過ぎないのだから。
「花蓮さんお帰りなさい!」
花蓮が自分達が根城にしているバーに辿り着くと、そこには既に仲間達が顔を揃えていた。ここのバーのオーナーは、元ブラッディ・ローズの幹部である。おかげで自分達は、未成年にも関わらずこの場所への出入りを自由に許されている背景があった。まあ、酒を飲む者が多いかと言うとそうでもないのだが。なんといっても、今は飲酒運転に厳しいご時世である。不良といえど、そうそう警察と喧嘩をしたいわけではないのだ、
「花蓮さんお帰り!」
「レッドスパイダー狩り、お疲れ様でした!」
「おう、悪いな遅くなって。倒すまでは早かったんだけどよ、高坂がなかなか口割らなくて困ったんだわ。ちょっと手間かけちまった」
そういえば、高坂はあのまま工場に転がしてきてしまったが、果たして大丈夫だったのやら。指を五本ばかし折ってやったのだ、再起不能になっていなければいいけれど――とまるで他人事のように思う花蓮である。
まあ、それくらいの落とし前はつけて貰わなければ困るのだが。――彼らに襲われた仲間の中には、頭蓋骨を割られていまだ意識が戻らない者もいるのである。
「勇敢なのはいいが、あんまり感心はしねぇな」
そんな花蓮に、堂々と意見してくる者が一人。
実質チームのNo.2である“百瀬臨矢”である。
「今回はレッドスパイダーみたいなザコチームだったからいいが。“本隊”相手になりゃ、いくらお前でも一人じゃ厳しいだろ。ちゃんと俺らを頼ってくれ」
「ひゅう!さすが臨矢の兄貴は良いこと言うー!」
「そうですよ花蓮さん。俺らのこともちゃんと使って欲しいっす!」
「わかったわかった。次はちゃんと頼るって」
慕われるのは、悪い気はしない。巻き込みたいかは別として、自分のような女を慕ってくれる彼らの気持ちを大事にしたいとは花蓮も思っているのだ。可愛い弟分のような彼らの頭をわしわしと撫でる。中には花蓮より頭一つ分以上も小さい、中学生のメンバーもいるのだ。
先代から託されたチームとこの仲間達、そして町の平和を守ること。それは花蓮の今の生き甲斐でもあり、誇りでもあるのである。ゆえに。
「とりあえず、早速だがリーダー。高坂から貰った情報を教えてくれねぇか」
どっかりとカウンター席に座り直し、臨矢が告げた。そう、自分がレッドスパイダーを叩いた理由は最大の理由は。奴等がこの町の治安を脅かそうとしていたからに他ならないのである。
「高坂に命じて、うちのチームのメンバーを襲わせた黒幕。わかったんだろ?」
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