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「……ヘル・オーガ。そういえば、聞いたことがありますね」
そして、交友関係が広く、隣市にも大勢友達がいると豪語する情報通の樹は、その名前にも聞き覚えがあったらしい。
「俺達ギャングって、基本的にはカタギには手を出さないみたいな、暗黙の了解あるじゃないですか。一部のしょうもない連中は、普通の学生からカツアゲやったりもするけど」
「だな。特にうちのチームは、俺がそういうの絶対許さねーし」
「花蓮さんはそこのとこ徹底してますもんね。そもそも一般人ターゲットにして色々やったら、警察の目も厳しくなって最悪チーム解散に追い込まれますもん。……でもヘル・オーガはほんと、そういう暗黙の了解みたいのが何もないというか。かなり評判が悪いみたいなんですよね。早い話、すっごく好き勝手にやってるというか。一昔前の“やばい不良”のイメージそのままというか。酒と女と煙草とクスリ!というかなんというか」
「あーうん……大体わかったわ」
一昔前のやばい不良、という言葉についつい笑ってしまう花蓮である。それで通じるのもアレな話ではあるが。
「実のところな、高坂からはしっかりヘル・オーガから命令を受けて、うちのチームの奴らを叩けと言われたってことまではわかったんだけどな。肝心の高坂は、“何故ブラッディ・ローズに喧嘩を売る必要があるのか”は全く知らされてなかったらしい。指五本折っても白状しなかったんだから、まず本当に知らなかったんだろうさ。ちょいと悪いことしたかね」
まあ、謝る気も慰謝料を出してやる気もないわけだが。なんといっても、襲われたメンバーはこのチームに入りたての新人トリオだったのである。まだ中学生の少年が一人、高校生が二人。小柄で力も弱く、喧嘩の腕もからっきしな――チームに入ったとはいえ、悪いことなど何一つしていないようなメンバーだったのである。
それが、ただ夜の公園で少しだべっていただけで――完全に不意を打たれる形で襲われたのだ、しかも瀕死の状態で、車に連れ込まれそうになっていたというのだから笑えもしない。偶然近くにチームのメンバーがいて駆けつけることができたから良かったものの、そうでなかったら一体どうなっていたことか。特に一人は、頭蓋骨骨折の重傷も重傷である。命を落としていた可能性は、けして低いものではないだろう。
「報復としては妥当なところなんじゃないですかね!」
そして、可愛い顔で過激な意見を支持するのが樹である。
「リョータ達をあんな目に遭わせて、指五本で済んだんだから御の字じゃないですか!殺されても文句は言えなかったっしょ!!」
「樹はリョータと仲良かったもんな。ほら落ち着け、ノンアルのカクテル奢ってやるから」
よしよし、と興奮気味の少年の肩を叩きつつ考える花蓮。
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