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<第三話・波乱の幕開け>
その日、花蓮はベッドでごろごろしながら頭を回していた。両親と住んではいるものの、二人とも良くも悪くも放任主義である。よほど大きな怪我でもして来ない限り、花蓮の素行を咎めるということもない。煙草だけは身体に良くないからと言い聞かされているため、花蓮の方も吸わないようにはしているが。
まあ、父の場合は、理想とかけ離れた成長の仕方をしてしまった娘に対し、半ば諦め気味というのもあるのかもしれなかったが。昔はおしとやかで、名前の通り“可憐”だったのに、と時折酒に酔うとぼやかれてしまう。正直なところ、花蓮自身ちょっと申し訳ないとは思っていなくもないのである。
――ほんと、幼稚園の頃の俺とかが、今の俺を見たらびっくりすんだろうなぁ。
元々母方の祖父母が揃って身体の大きな人たちであったので、花蓮の身長が大きくなる可能性は十分にあったのである。さすがにここまで縦にも横にもデカくなるとは誰も想像していなかっただろうが。
同時に花蓮の場合は、ただ身体が大きいわけではないのだ。大抵の鍵ならば腕力でこじ開けられるし、武器がなければバイクでもなんでも投げ飛ばせてしまうというあたりでお察しである。キングコングか!と一部男子に言われるの間仕方のないことではあった。――尤も、全ては花蓮自身が望んだ結果ではあったのだけども。
――可愛い女の子の方が、世間の男どもは好きだろうってことくらい、わかってるさ。
ごろんごろんと、ベッドを転がりながら思う。
――でもな。……俺がなりたかったのは。ピンチになった時都合よく助けてもらえるような、守られ系ヒロインでも深窓の姫君でもねえ。一番大事な人を、この手でちゃんと守ってやれる……ヒーローなんだ。
現実には、危ないときに必ず助けに来てくれるヒーローなんて存在しない。
善人なら確実に救ってくれる、そんな優しい神様もいない。
そんなものがいるのなら――あの子があんな、無惨な最期を遂げることなど、きっとなかったはずなのだから。
――誰になんと言われようが、みっともないって批難されようが構うものか。俺は、俺の育った町と……俺を慕ってくれる奴等を守りたい。ただそれだけなんだ。
そのために、やるべきことはやらねばなるまい。
レッドスパイダーに、何故彼らを傘下に率いれたヘル・オーガは自分達のチームを襲えと命じたのか。
臨矢の言う通り、レッドスパイダーと自分達ブラッディ。ローズでは地力にも人数にも差がありすぎる。新人のメンバーを三人ばかり襲ったところで戦力を削るどころか、怒りを買って報復されるだけというのはわかりきっていたはずなのだ。
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