<第四話・女総長、逆行す>

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<第四話・女総長、逆行す>

「とりあえず、急いでご飯食べてね。それと、目覚まし時計が鳴ったらちゃんと止めるのよ。教えてあげたでしょ?」 「え、えっと……」  明らかに小さな子供に言うような説教を受けながら、花蓮はテーブルに座り固まっている。目の前には、白いご飯に味噌汁、卵焼きというオーソドックスな朝食。今でこそ花蓮の家の朝食はパンも増えたが、子供の頃は殆どが白ご飯に味噌汁だったなと思い出す。当時は味噌汁がどうしても食べられなくて叱られてばかりいて、その原因が中に入っているネギにあると知ったのはわりと後になってからのことだったのだが――いや、今はそういうことが大事なのではなく。 ――い、一体……何が、どうなってやがるんだ?  先ほど洗面所まで行って帰って来て、事の深刻な現状をはっきりと理解してきたところであったりする。鏡に映っていたのは、長い髪にイチゴの模様のついたパジャマを着た――いわゆる“幼女”と呼ばれるイキモノであったのだから。年齢は、恐らく未就学児童。洗面所の鏡を見るのさえ、踏み台を持ちいらなければならないほどである。  そもそも、今住んでいるこの家の内装だ。どこからどう見ても、今花蓮が生活している一戸建てではない。昔住んでいたマンション。まだベランダの外をはっきり見ていないが、二階へ続く階段もないし、今の家にはない和室もあるし、懐かしすぎる玩具や小さな滑り台も設置されていることからほぼほぼ間違いないことだろう。  これは何かの夢であると、そう信じたい。  だが、もし夢ではないのだとしたら、これは。 ――俺……幼稚園児に逆戻りしちまったのか!?  頭の中身はそのままに、幼稚園児まで戻ってしまったというのか。逆行、という言葉がするするーっと頭の中を通過していく。中学の時に読んだWEB小説を思い出していた。あれは、男子バスケ部の少年が過去にすれ違った仲間と仲直りするため、過去に逆戻りして絆を元に戻そうとする話であったが。こんな、十年以上もの時間を一気に逆戻りして、途方に暮れるような話ではなかったけども。 ――う、うそうそうそうそ!ありえねーって、そんなんじゃねーって!ぜ、絶対夢、これ夢、夢、夢だってば……。 「ほら、花蓮ちゃん何してるの、早くご飯食べなさい!」 「お、おう、わ、わかった、ぜ……」 「“わかったぜ”?」  意識が遠ざかる時間さえ許してくれないらしい。ぎょっとしたように花蓮の返答を咎める母。
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