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ふと、スカートを履いている女性と背中が曲がっているお年寄りが手に大きめの何かを持って前に出た。
ポタン、ポタン。
ここからでも赤い液体が滴る音が聞こえると錯覚してしまうような、子牛の死体。
子やぎの死体だったかもしれない。
女性とお年寄りは、一体ずつそれを持っていた。
「……満月……納め……」
大人たちの声が一段と大きくなる。
空気が次第に、緊張感をはらんできた。
そして。
ズシリ、ズタリ。
生ゴミでも引きずるような音とともに。
巨大な影みたいな闇みたいなものが現れた。
ところどころ尖っていて、奥が見渡せないとにかく暗くて黒いモノが社の中から出てきたのだ。
誰、という話ではない。
あれは、一体、何?
秘密基地には、あんなモノいなかった。
そして、そのモノが子牛の死体を掴み取り、食べた。
グシャリ、グチョ、グチャ。
「ヒッ……!」
僕たちの中の誰かが、そんな声をあげる。
それも仕方がなかっただろう。
肉と骨があり血液が流れるものを食べる、生々しい音は小学生の僕らには厳しかった。
「うわぁあっ!」
ついに一人が、声をあげて逃げ出した。
大人たちの視線が一斉にこちらへと注がれる。
もちろん、あのモノの視線も。
目なんて見えないのにこちらをまじまじと、獲物の価値を調べるような目つきでモノに眺められた。
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