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その視線に耐えきれなくなったのか、一人、まあ一人と草むらの中から逃げ出していく。
人間ではないモノと、モノに子牛を捧げる大人の視線に。
僕と啓大も、顔を見合わせた。
啓大の顔にも「逃げるが勝ち」と書いてあったので、僕も山の斜面をかけ下りて逃げることにした。
と、ベシャッと子牛の死体を地面に叩きつけたような音が聞こえて、何かが自分の後ろにいるという圧倒的な闇の気配を感じた。
モノ、だ。
捕まってはいけない。
本能がただただ、そう警告していた。
後ろで、
「うわあぁぁぁぁぁあやだぁぁぁ死にたくなぁぁぁいだいぃいだいよぉぉぉぉいやだぁぁぁぁ」
と、叫び声が聞こえる。
これは、一緒に来た男子の声だ。
そっと後ろを振り返ると、そこには口の端から服の切れ端と肉の切れ端を覗かせたモノがいた。
水溜まりではない、血溜まりができている。
食べられたんだ。
あれは、断末魔の叫びだったんだ。
そう理解した途端、足が動き始めた。
逃げなければ。
捕まってはいけない。
捕まれば、あのモノに殺される。
あのモノに、食べられてしまう。
僕や啓大を始め、みんなはよーいドン、の合図があったみたいに一斉に走り出した。
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