満月の夜に

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僕は立ち上がって、急いで走り出した。 近くにいた啓大が石を投げてくれたようで、僕は啓大にうなずいて手を合わせておく。 走りすぎて、声を出す余裕はなかった。 さっきまでうめいていた怪物が、いきなり啓大の後ろにいて啓大を食べようとしている、と言えるような体力はもう僕には残っていなかった。 「うわぁぁぁやめろぉぉぃいだぁぁいぃぃ」 啓大の声が、大音量で何かを叫んでいた。 が、僕には怪物に石を投げられる勇気も力もないので啓大の犠牲を糧に走り出すしかない。 ごめん、啓大。 でも僕は生きていたいんだ。 後ろを振り返らずに懸命に走った結果なのか、僕は誰よりも早く山を降りることができたようだった。 僕以外、全員食べられたわけじゃなくて、たまたま僕がいちばん早かったんだと信じていたい。 山を降りると怪物はも追ってこないようだった。 満月も、もとの少しだけへこんだ満月に戻っていた。 僕は、そのあと何も持たずに隣の町に住んでいる叔母夫婦のもとへ行き、そこへ住ませてもらうことになった。 叔母たちも、あの村の何かを知っていたのかすぐに了承してくれた。 あの村は、それからしばらくして廃村になり、僕はそこから遠いところで普通に暮らしている。 あと、あの山を降りた時にふと思い出したんだ。 「あの山には、子供が大好きで大好きで、それはもう食べちゃいたいくらいに大好きな神様がいるんだよ」 という死んだおばあちゃんの言葉を。 その神様は、満月の時に現れて子供を食べるのかもしれない……その満月が訪れないようにする儀式の途中で子供が現れたら、食べてしまうのかもしれない。 あ、そうそう。 廃村になったということは、その村の外にも食べ物(子供)を求めて神様が行くかもしれないから気をつけて。
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