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満月の夜に
僕が住んでいる村には満月が来ない。
丸に近い形になることもあるけれど、完全な円形になる満月を、僕はこの村で見たことがない。
教科書に書かれた月が満月だと知るまでは、少し歪んだ円に近い月が満月だと思っていたくらいだ。
「まんまるの満月、見てみたいよな」
親友の啓大とは、よくそう話していた。
僕や啓大の住んでいる村は、山のふもとにある田んぼが多く自然豊かで平和な村だ。
村の隣にある山は珍しい虫も多いため、よく僕ら子供たちの遊び場となっていた。
だから、啓大に「山の上にいい秘密基地を見つけたんだ」と誘われたときも自然についていったのも仕方がないだろう。
「こんな上まで登るのか?」
「当たり前だろ?」
大人たち、特に親や先生からは、山の頂上へ行くことを禁止されていたので、啓大に訊いた。
が、啓大は当たり前だという。
そんなものかもしれないと思いながら、険しくなってきた山道を登っていく。
途中で珍しい昆虫を見つけて騒いだりして、頂上に着いた頃には空が赤く染まり始めていた。
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