0人が本棚に入れています
本棚に追加
「君の近況も教えてよ。」
「弟に身長を抜かれた。」
ダメもとで聞いてみた質問は予想外に即答されたので、少し驚いた。
しかも内容が子供らしくて微笑ましい。やっと少女らしい一面が見られた気がする。
「僕には兄弟がいないからどんな感覚かわからないけど、弟とは競り合いたいものなの?」
「負けたくはない、けど、どんどん成長して、どんどん立派になってほしいと思ってる。」
少女は僕を見ることなく真っすぐと正面を見つめていた。きっと景色を通して弟の姿を思い浮かべているのだろう。その横顔は先ほどまでの可愛らしさとは打って変わって、純粋ゆえの美しさそのものだった。
ゆっくりと静かに流れるこの場所が、現実よりもだいぶ居心地が良くて、このまま目覚めなければいいのに――とさえ思ってしまう。
だが、そういうわけにもいかなかった。
もう少しで朝が来る、という時に少女は突然、ブランコから降りて僕の腕を強く引っ張った。
少女の顔は涙でいっぱいだった。
いきなりすぎて、なぜ少女がこんなにも涙を流しているのかさっぱり理解できなかった。ただ、原因が僕なのは間違いなくて、なんだかとても悲しく寂しい気持ちになる。
「早く! 早く帰って!」
少女の声は緊迫しているように思えた。
状況についていけない僕は心の整理がつかず、少女の腕に引っ張られるがままだった。
公園の入り口まで来ると、少女は僕の腕を離して、背中を強く押した。
僕は慌てて少女の方を振り向くが、僕の足は公園の敷地から一歩踏み出してしまっていた。
――と、同時に目が覚めた。
最初のコメントを投稿しよう!