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こんな夢を見た。
夕暮れの公園、僕はブランコでゆっくりとゆらゆら揺れていた。
隣のブランコには、揺れることなく、見覚えのない幼い少女が下を向いて座っていた。
中学生になってからこの公園には来ていなかった。だいぶ久々で懐かしい感覚に浸りつつも、隣の少女のことが少し気になった。
このくらいの年頃なら元気よくブランコを漕いでいてもいいような――。
普段だったら一切関わろうとはしないだろうけれど、これは夢だ。なんだか少し面倒ごとに巻き込まれてもいいような気がして、僕は声をかけてみることにした。
「あの、どうしたの? 大丈夫?」
僕の問いかけに少女は逆に質問で返してきた。
「どうして、あなたがここにいるの?」
少女は顔を上げて言った。真っすぐとこちらを見つめる瞳はなんだか潤んでいるようにも見えた。
どうして、と聞かれても困ったものだ。この夢が始まった時から僕はここにいるのだ。理由なんてなかった。
「今すぐ家に帰って。」
少女の口調は少し強めだった。
何かあったのか説明をしてほしいという僕に、少女は説明することは出来ないと説明する。
夢とは言え見覚えのある公園なので、帰ろうと思えば家に帰れるのかもしれない。だけど、幼い少女を置いて一人で家に帰ったところで一体どうなるというのだろうか。
ここは夢だ。
僕はもう少し少女につっこんでみることにした。
「君こそ、そろそろ家に帰ったほうがいいんじゃない?」
「私の居場所はここなの。」
「居場所って……。じゃあ、僕と帰ろう。」
僕の提案に少女は黙って首を横に振った。
少女はなぜここに留まり、僕を追い出そうとするのだろう。
正直、理由は全くわからない。でも、絶対に少女を放っておいてはいけないのだと、本能のようなものが感じていた。
僕は一旦、現状を理解しようとするのをやめることにした。考えるだけ無駄なような気がしたし、重要なのはそこではないと思ったからだ。
試しに、自分の近況報告をしてみることにした。
「最近、少し受験勉強に行き詰ってさ、家を色々漁ってたんだ。そうしたら家族のアルバムを見つけて、新しいのから順に見て行ったんだけど、一番古そうなアルバムに僕の知らない写真があったんだ。」
少女は僕の話を黙って聞いていた。
頷きも何もないので、聞いているかどうかは微妙なところではあったけれど、でも多分、聞いていた。
近況報告が終わる頃には日が暮れて、月明りがぼんやりと僕たちを照らしていた。月明りの下だからか、夢だからか、普段は両親や友達にも話せないようなことなんかも少女には話した。
もう夢だという感覚をすっかり忘れかけていた。
「お話をしたいならすればいいけど、朝が来るまでには帰ってね。」
少女はまだ帰るように僕を促す。
僕は一方的に少女に話をして、勝手に距離が縮まった気でいたものだから、少し寂しい気持ちになる、と同時にここまで言われると意地のようなもので逆に帰りたくなくなった。
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