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「颯汰、もう出なきゃ遅刻するから・・・!」
「すぐだから」
一度解いた髪の毛に、器用に何度も指を通していく。するすると指先が通り抜けて、頭皮を軽く引っ張られたと思えば、するんとゴムで束ねた。本当にすぐだった。もう一度ワックスを取り出して、手のひらに伸ばすと毛先に揉み込む。手慣れていて見入ってしまう。
「ほら、できた」
恐る恐る鏡を見ると、それはポニーテールだった。
ずっと避けていた髪型だった。けれど、ワックスのおかげで癖っ毛のウェーブを生かしながら、綺麗にまとまっている。
「わ・・・」
語彙力が何処かにぶっ飛んでしまった。恐る恐る後頭部に手を伸ばす。
鏡に背を向けるようにくるりと体を揺らすと、結い上げた髪の毛が揺れる。自分の髪の毛とは思えない。
「ね、悪くないでしょ?」
「・・・うん。ありがとう」
「どういたしまして」
ふふん、と颯汰が自慢げに笑う。
「姉ちゃんはすぐ諦めるんだから。」
「・・・え?」
颯汰が両手のワックスを洗い流す音で、何と言ったのか聞こえなかった。
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