必死なんだわ

2/2
前へ
/43ページ
次へ
「颯汰、もう出なきゃ遅刻するから・・・!」 「すぐだから」 一度解いた髪の毛に、器用に何度も指を通していく。するすると指先が通り抜けて、頭皮を軽く引っ張られたと思えば、するんとゴムで束ねた。本当にすぐだった。もう一度ワックスを取り出して、手のひらに伸ばすと毛先に揉み込む。手慣れていて見入ってしまう。 「ほら、できた」 恐る恐る鏡を見ると、それはポニーテールだった。 ずっと避けていた髪型だった。けれど、ワックスのおかげで癖っ毛のウェーブを生かしながら、綺麗にまとまっている。 「わ・・・」 語彙力が何処かにぶっ飛んでしまった。恐る恐る後頭部に手を伸ばす。 鏡に背を向けるようにくるりと体を揺らすと、結い上げた髪の毛が揺れる。自分の髪の毛とは思えない。 「ね、悪くないでしょ?」 「・・・うん。ありがとう」 「どういたしまして」 ふふん、と颯汰が自慢げに笑う。 「姉ちゃんはすぐ諦めるんだから。」 「・・・え?」 颯汰が両手のワックスを洗い流す音で、何と言ったのか聞こえなかった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加