逃げんなよ

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逃げんなよ

そこまで言われて、意識しないなんて無理だ。 自意識過剰と笑われてしまうかもしれないけど、彼から徹底的に逃げていた。顔を合わせれば、声を聞いたら、きっと思い出してしまう。 午前中には総務課に来ていた黒いスーツを見つけて、トイレへ引き返した。会わないように細心の注意を払いながら、壁を伝って社内を移動する。忍者か。 「さっき一磨さん来てましたよ」 雪は面白がっている。 「何の用事?」 「領収書置いていきました」 「ええ・・・」 領収書がデスクに数枚置かれている。1ヶ月分をまとめて提出してくれれば問題ないのに、こうして数枚ずつ持って来るようになったのはつい最近の事だ。こっちとしては処理しやすいけれど、彼にとっては手間だろう。休日出勤する程忙しいのに・・・ 頭を振った。余計な事を考えている場合じゃない。仕事に集中しよう。あまり色々と考えたくないのが本音だ。 定時ぴったりに席を立つ。 今日は速攻で帰ると朝から決めていたから、机の上は予め片付けていた。パソコンのシャットダウンを確認して、コートを羽織る。 「お疲れ様、お先に失礼するね」 「お疲れ様です」 弟さん待ってますよ、と雪が微笑んだ。
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