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マフラーに鼻を埋める。
街灯が照らす帰り道を歩いていた。
震えたスマホを取り出すと、颯汰から写真が送られてきた。カレーだ。「美味しくできた」と踊っている犬のスタンプと一緒に送られてきて、頬が緩む。
一人暮らしを長く続けていたせいか、家に帰ると温かな料理があるというのは不思議な感覚だ。ぐぅ、とお腹が鳴る。「美味しそう。すぐ帰るね」と返して歩き出そうとしたが、見覚えのある姿が遠くに見えて、反対方向を向いた。
一磨さんだ。
目が合う前に気づけて良かった。社外という事で気が緩んでいたのが悔しい。
少し遠回りになるけど、いつも通らない小道へと入り込んだ。
「あれ?牧原さん?」
「あ、」
後ろからかけられた声は、少し掠れた聴き慣れないものだった。
「俺のこと覚えてる??」
「あ、はい。居酒屋で会いましたよね」
「良かった〜!覚えててくれた!」
彼は居酒屋で一磨さんの隣にいたテンションの高い人だ。
「橘さんですよね。」
「橘隼人です。営業課の!牧原さん今帰り?ちょうど良かった!」
「はい、はい?」
「おーい!一磨!」
「げ、あ、ちょっと!」
橘さんが振り向いて声を上げた先。明らかに怒りを滲ませていた彼がこっちを見ていた。
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