逃げんなよ

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舌打ちが聞こえたのは気のせいじゃない。 さっきまで逃げようとしていた相手が目の前まできて、気まずくて視線を逸らしてしまう。 「お前逃げようとしただろ」 「いや、・・・逃げようとしたというか」 「急に方向変えたの見えてんだよ」 「う、それは、違うくて」 しどろもどろで泣きたい。 言い訳しようにも顔が怖くて、「すみません」と、マフラーに埋もれるように俯いて謝った。 「橘、先戻ってろ」 「取って食うなよ!牧原さんじゃあまた!」 取って食うとは。 爽やかに去っていく橘さんを睨んだ。いや、橘さんは悪くない。 「いい加減こっち見ろ」 人気のない細道は街灯も少なくて薄暗い。頬を掴まれて無理矢理合わされた顔は、どんな表情しているのか逆光でよく見えなかった。
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