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ため息をついて背に回った大きな掌が、あやす様にゆっくりと撫でる。徐々に力が込められて、密着した身体ごと抱き締められた。ゆっくりと窒息しそうになる。
ぶらり、と体の横に下がった手がどうしていいか分からず彷徨う。
次何かされたら容赦なく殴るなり蹴るなりして、逃げるつもりだったのに。
困ってしまった。
自分よりも随分早い心音が聞こえて、甘える様に肩に額を寄せられて。
「会社の人に見られたら勘違いされる」
「されればいいだろ」
いつの間にか声が甘さを含んで掠れている。肩をすくめたのは逆効果だ。耳先に熱い息を感じてしまったから。
先程まで抑えこんでいた頬を、かさついた親指の腹が労る様に撫でる。ぴくり、と肩を揺らせば彼は鼻で笑った。
さっきから、沈黙が甘い。
変な空気に飲み込まれてしまいそうで怖くなる。何か喋らないと。鈍っていた頭をフル回転させる。
「早く帰らないと」
「帰って寝るだけだろうが」
「ちが、」
「はあ、あったけぇな、お前」
首元ですんすんと鼻を鳴らされると、羞恥のバロメーターが吹っ切れた。なんだこの空気は。もう耐えられない。上体を逸らして逃げようとしている事に気付いたのか、背中に回っていた掌が後頭部を髪の毛ごとくしゃりと掴む。
ぞわり、と背筋が震える。
髪の毛を触られて不快感がどっと押し寄せた。
「や・・・、!やだ!」
「や、って何だソレ」
「触んないで!!!」
「ッ!いでぇ!!」
彼のつま先あたりに、勢いをつけた踵で踏みつけた。
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