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橘という男
橘隼人と呼ばれた男は、最近とても気になる事があった。
それは、社内で一番仲のいい同期の事だ。
彼とは同じ営業課で、時には仲間として時にはライバルとして、入社してから共に成長してきた。オフでも遊ぶくらい仲がいい。社内で彼と一番仲がいいのは自分だと思っている。
そんな彼が、最近様子がおかしい。仕事に支障をきたしている訳ではないし、むしろ絶好調だ。仕事の面では。
「おーい!一磨」
定時後。当たり前のように残業する彼は休憩室の窓際に立っていることが多い。
ここは3階。周りは高い建物が多いし、見晴らしは微妙だ。ポケットに片手を突っ込んで、疲労感を滲ませた横顔を見つけ、缶コーヒーを片手に近寄った。横に並び視線の先を追って窓から見えるのは、見慣れた景色だ。
「何見てんの?」
「・・・」
「無視?」
「うるせぇ」
口と態度が悪い彼は、あまり評判が良くない。好かれる気なんて最初からないだろうが、特に上司からの評価は最悪だ。黙ってると顔はいいし、仕事もできるから僻みも含まれているだろう。
自分とは正反対だと、橘は思う。
愛嬌を振りまいて上手く立ち回れば、多少仕事ができなくても出世はできる。上の人間に気に入ってもらえれば、甘い蜜を吸える。社会人なんてそんなものだ。と働くにつれて気づいた。
一磨だって分かっているだろう。
けれど、いつまで経っても彼は媚びたりしなかった。それなのに未だに営業成績で彼には勝てないのが少し悔しい。
「牧原さん達、今日は残業らしいよ」
「なんで知ってんだよ」
「雪ちゃんが喚いてた」
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