橘という男

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窓の外から視線を外しため息をつく。 「昨日あの後どうした?あの子、食った?」 畳み掛けるように尋ねるのは、ちょうど昨日の今頃の事だ。 機転の利いた対応に少しは感謝しろよ、と小突く。 「食ってねぇよ」 「めずらしい。手の速い一磨くんが」 「はぁ。んな事しない」 「・・・へぇ」 せっかくからかってやろうと思ったのに。そんな情けない顔をされると調子が狂ってしまった。 缶コーヒーのプルタブに指をかける。橘はまだ正直信じられない。この男が最近気にかけているのが、総務課にいる癖っ毛の女だと言うことが。 「牧原さんかわいい?」 大人しくて真面目そうで、少し暗い。 居酒屋での印象は、そんな感じ。俺も一磨も挨拶程度の会話しかしていない。けれど、あの日以来彼は癖っ毛の女を追いかけ続けている。 「知らねぇ」 「ああいうのタイプじゃないだろ?」 「タイプじゃねぇ。けど、小さい手とか、食ってる時とか。もふもふしてるとことか、」 「・・・ん?何の話だ?」 「なんでもねぇよ」 首を傾げると、一磨は怖い顔をしてそれ以上は喋らなくなった。
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